【103】共有特許権の実施における「一機関」

Q)AとBが共有する特許権Xがあります。Aは、Bの同意を得ること無く、Cに特許権Xに係る発明(特許発明)を実施させているようです。これは特許法第73条第3項に反する行為なのでしょうか?

A)特許法第73条第3項では、共有特許権において第三者に専用実施権や通常実施権を与える場合には、他の共有者の同意を必要としています。

よって、同条項を文言通り適用すれば、AはBの同意を得ることなく、Cに特許権Xについての実施許諾を与えているように見えます。

しかし、共有者の一人が、その指揮監督の下、自らの事業として他人に特許発明に係る物の製造等の行為をさせている場合には、他の共有者の同意は必要ないと解されています。
つまり、このような場合、この他人は特許権者の「一機関」にすぎず、特許権者の実施と同一視できるとみるわけです。

この他人が「一機関」といえるには、
❶権利者との間に工賃を支払って製造させる契約(請負契約等)の存在、
❷権利者の指揮監督の下、製造について原料の購入、製品の販売、製品の品質管理等がなされていること、
❸製品を全部特許権者に引渡し、他へ譲渡していないこと、
が必要と解されています(例えば、吉藤 幸朔著、「特許法概説 第13版」、第549頁等)。

よって、このケースにおいて、AとCの関係が、上記の❶~❸の全ての要件を満たすのであれば、CはAの「一機関」に該当し、AはBの同意を必要としないと判断される余地があります。
しかし、CがAの下請け等であったとしても、上記の❶~❸の1つでも要件を満たしていないのであれば、AはBの同意を必要とするといえます。