【102】共有の特許権

Q)特許権が共有である場合、どのような制限がありますか?

A)特許権は無体財産であることから、他の一般の財産権の共有と違った事情を抱えます。
そのため、民法の共有に関する一般規定(例えば、民法249条~263条等)の他に、特許法第73条等に特別規定が存在します。
以下に、特許権が共有に係る場合における、よくある留意事項を以下に示します。

(なお、「共有」とは、1つの特許権に対して、複数人が特許権者となっている状態です。)

❶持分譲渡等の取扱い(第73条第1項)
特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができません。
特許発明の実施は有体物の使用の場合と異なり、一人が使用したために他人が使用できなくなるものではなく、複数人が同時に実施(使用・収益)することが可能です。その際、投下する経済的・人的資本の程度によって得られる収益が著しく異なることで、他の共有者の持分の経済的価値に変動をきたすおそれがあります。例えば、個人で発明を実施する場合と、大企業が発明を実施する場合とを想像して頂ければと思います。このような事情に鑑みて、特許権の共有者は互いに信頼関係にあることが必要であり、持分の自由譲渡について一定の制限を設けたと解されています。
なお、同条項では、質権設定についての、他の共有者の同意を必要としていますが、これは質権が実行されてしまうと特許権が移転される、という質権の前提を考慮したものです。

❷契約で別段の定めがあった場合(第73条第2項)
特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めがある場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができます。民法の一般規定からすれば各共有者は他の共有者の同意を得ないで自己の財産権(特許権)について自由に使用・収益することができる(つまり、特許発明を実施することができる)といえますが、特許法第73条第1項の規定にひきずられてこれに反する解釈がなされることがないよう、念のためこのような規定をおいたものと言われています。
とはいえ、契約で別段の定めがある場合には、当事者間の合意を尊重し、契約の内容に拘束されるというわけです。例えば、契約で特許権の持分の定めを取り決めた場合には、登録申請書にその旨を記載することができます(特許法施行規則第27条等)。

❸実施権の設定(第73条第3項)
、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができません。特許権について専用実施権や通常実施権の許諾を無制限に許してしまうと、実施権者の資本や技術力が巨大であった場合には、他の共有者の権利が有名無実となるおそれがあります。例えば、特許権が個人Aと中小企業Bの共有である場合において、個人Aが大企業Cに特許権の実施許諾をしたとします。その場合、大企業Cが大規模な製造・販売を展開すると、中小企業Bのシェアは減少することが予想されます。そこで、このようなことが起きないよう、個人Aが中小企業Bに実施許諾をする際は、Bの許諾を必要としたわけです。

❹審判請求・審決取消訴訟
訂正審判は、共同で請求しなければなりません(第132条第3項)。無効審判は、特許権利者全員を被請求人としなければなりません(第132条第2項)。権利内容の変動に関するものであり、共有者全員に対して合一確定の要請が働くためです。

❺侵害訴訟
特許権に基づく差止請求(特許法第100条)、損害賠償請求(民法第709条)、不当利得返還請求権(民法第703条、第704条)、信用回復措置請求(特許法第106条)は、単独で行使することができます。