キーワード:特許権侵害訴訟

 

タイトル:「特許権侵害訴訟の訴状について」

 

 

Q:特許権侵害訴訟を提起する際の訴状について教えて下さい。

 

A:今回は、特許権侵害訴訟を提起するための訴状についてご説明します。具体例として、日本において、甲社が、乙社に対して、甲社名義の特許権に基づく乙社製品(イ号)の差止請求及び損害賠償請求の訴え(給付訴訟)を提起したというケースを用いてご説明します。

 

1.出訴裁判所について

特許権侵害訴訟の裁判管轄については、民事訴訟法(以下、民訴法といいます)6条第1項において東京地方裁判所(同項1号)、大阪地方裁判所(同項2号)のいずれかの専属とすることが定められています。特許権のように専門的技術的な要素がある事件(特定侵害訴訟)については、同種事件についての実務経験の蓄積があり、事件処理のための体制も整っている東京地方裁判所と大阪地方裁判所のいずれかに出訴しなければならないのが原則です。

 

2.代理人について

事件については弁護士が訴訟代理します。弁理士については、付記弁理士は弁護士との共同訴訟代理人として訴訟に参加し、付記を持たない弁理士については補佐人(民訴法第60条第1項)として訴訟に参加します。とはいえ、弁理士については、付記の有無によって訴訟活動内容やその範囲が変わるということはほとんどない、というのが実情だと思います。

 

3.訴えの手続について

甲社によって訴状が裁判所に提出されることで、訴えが提起されます(民訴法第133条第1項)。訴えが提起されることによって、甲社と乙社という当事者間において、特定の事件が特定の裁判所によって審理される状態となります。

(1)訴状には、請求の趣旨及び原因などを記載します。

①「請求の趣旨」とは、甲社が裁判所に対して求める判決内容としての結論的・確定的な内容であり、通常判決の主文に対応します。例えば、

「1.被告は、別紙被告製品目録記載の・・・を製造し、使用し、譲渡し、貸渡し、若しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

2.被告は、別紙被告製品目録記載の・・・を廃棄せよ。

3.被告は、原告に対して○○○○○○○○円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4.訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言を求める。」といった要領になります。

 

②「請求の原因」とは、請求を特定するのに必要な限度での権利関係とその発生原因事実をいいます。具体的には、本欄において、特許権者(権利者)、義務者、権利・義務の内容を特定するとともに、その発生原因等についても説明します。ここで、甲社は、乙社製品(イ号)が本件特許の構成要件を充足していることを主張するとともに、損害額についても主張します。

 

(2)訴状に添付する附属書類・添付書類としては、

❶訴状委任状、補佐人選任届、付記弁理士については特定侵害訴訟代理業務試験合格証の写し

❷甲社及び乙社の商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)

❸甲社名義の本件特許権の登録原簿謄本の写し、特許公報

❹乙社の対象製品(イ号、ロ号・・・などと呼称します。)を特定するための被告製品目録・説明書

❺訴額計算書その他証拠等

などがあります。

 

4.訴えの提起後~第1回口頭弁論期日迄について

(1)原告である甲社から訴状が裁判所に提出され、事件が特定の裁判所に配分されますと、訴状の方式的な審査がされます。例えば、上述した訴状についての必要的記載事項(当事者、訴訟物の特定)、印紙の貼用の有無などが審査されます。不備がなければ、訴状が受理され、相手方(被告)である乙社に送達されます(民訴法第138条第1項)。

なお、訴状に不備があった場合には補正命令の対象となり、原告である甲社が不備を補正しない場合には訴状却下となります(民訴法第137条第1項、第2項)。

 

(2)訴えの提起後は、裁判所による訴訟指揮のもと、事後のスケジュールの調整等がなされます。例えば、第1回口頭弁論期日の日程調整等が、裁判所書記官を通じて両当事者に対してなされます。第1回口頭弁論期日では、事件の読み上げがなされ、当事者については、提出された訴状(答弁書及び準備書面が提出されている場合にはこれらについても)陳述します。殆どの場合、当事者による陳述擬制で済まされるため、然程時間がかからずに終わります。

また、場合によっては争点や証拠の整理が行われます。

以降については、裁判所の指揮のもと、訴訟が進行していくことになります。

 

5.今回は、訴状の提出から第1回口頭弁論期日(最初に裁判所に行く日)までの大まかな流れについてご説明しました。

 

※ 本項は一般的な事項についての記載であり、これをもって何らかの法的アドバイスをするものではありません。具体的な事案の対処については専門家にご相談下さい。