【111】先使用権における「実施の事業の準備」とは

Q)先使用権の発生要件の1つである「実施の事業の準備」を満たすには、どういった内容のものを程度に準備しておく必要があるのでしょうか?

 

A)先使用権(第79条)では、その発生要件として「実施の事業又はその準備」をしていることを要求しています。しかし、条文上、「実施」や「その準備」の意義は明記されていないので、侵害訴訟等の場面で争いとなることがあります。

この点、ウォーキングビーム炉事件(最高裁第二小法廷昭和61年(オ)454号)では、主観的要件として❶即時実施の意図を有していること、及び客観的要件として❷即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていること、が必要だと判示されています。ちなみに、この事案では、見積仕様書及び設計図の提出を事業の準備行為と認定し、上記❶と❷の要件を満たすと認定されました。加えて、ウォーキングビーム炉は、引合いから受注・納品に至るまで相当の期間を要するものであり、注文を個別に受注してから生産にとりかかるという特殊性がありました。この特殊性を考慮し、「事業の準備」から「実施」まで約5年の年月が経過していましたが、「即時実施の意図」があると認定されました。