キーワード:明細書の構成、記載要件

 

「特許明細書ってどういう作りになっているのでしょうか?」

 

<記事本文>

 

Q:「特許明細書」って、どこをどう読めばいいのでしょうか?

 

A:そうですね。特許明細書は、確かに日常使用しないような日本語で記載されており、どこがポイントなのかよくわかりませんよね。このような質問は、他社の特許をチェックする際や、ご自分が特許出願するときに特許事務所が作成した特許明細書をチェックする際などによくお受けしますよ。特許明細書については一言で語り尽くせませんが、ここではざっくりと特許明細書の概略的なところをご説明します。

 

1.特許明細書の構成とその性質

最初に少し堅い話をします。まず「特許明細書」とは、特許出願に必要な書面です。特許法によれば、特許出願の審査は書面主義を基本としており、書面に基づき審査されます(特許法施行規則第1条第1項)。その書面の中心的なものが「特許明細書」です。なお、より正確に言うと、皆さんがよく言う「特許明細書」とは、特許法上の「願書」、「特許請求の範囲」、「明細書」、必要な「図面」及び「要約書」等の書面を総称したものを指します(特許法第36条第1項、第2項など)。本項では、便宜上、これら願書、明細書等を「特許明細書」と呼ぶことにします。

 

この特許明細書の法的位置づけは、特許権の権利範囲を確定する権利書的性質と、発明の内容を正確かつ明瞭に第三者に公開する技術文献的性質とを併用しているといわれています。特許権という独占排他的権利を認めるかわりに、その発明の内容をみんなで共有できるよう十分に公開しなさいという趣旨です。したがって、特許明細書は、この①と②の要求を満足するように記載されるべき、というわけです。

 

2.特許明細書の具体的内容

概念的な話はそれくらいにして、次に特許明細書のパーツともいえる各書類について説明します。

(1)願書には、特許出願人の氏名・住所、発明者の氏名・住所等を記載します。よって、願書を見るときは、主に、特許出願人と発明者の氏名や住所が正しく記載されているかをチェックすればよいでしょう。

 

(2)特許請求の範囲は、特許権の権利範囲となる内容を出願人自らが特定する書面です。特許請求の範囲に記載された内容が権利範囲であり、第三者がこの権利範囲に属する内容を実施する行為は、特許権侵害にあたります。裏を返せば、この権利範囲に該当しない限り、第三者は自由に経済活動を実施できるというわけです。つまり、特許権の権利範囲を確定する権利書的性質という点で、特許明細書の中で最も重要な書面といっても過言ではないでしょう。

ここで気をつけなければならないのは、特許権としてどのようなものを権利として請求(申請)するのかは出願人の自由であり、特許請求の範囲に何を記載するのかは出願人の自由であるという点です。特許請求の範囲は広く記載すれば、権利範囲が広くなり、狭く記載すれば、権利範囲は狭くなるということです。

 

(3)明細書は、発明の内容を詳細に説明する書面であり、特許請求の範囲の理解を助けるものです。つまり、発明の内容を正確かつ明瞭に第三者に公開する技術文献的性質という点で明細書は重要な書面です。明細書の内容が不十分であると、どんな発明なのか理解できず、わかりにくい特許明細書だなぁ、ということになりますね。

 

(4)図面は、発明の理解を助けるためのものであり、特許請求の範囲の理解を助けるという点では、明細書と同様の書面です。なお、図面は任意の書面ですが、装置や構造に関する発明では図面を極力多用することがよいでしょう。

 

(5)要約書は、発明の概要等を簡単にまとめた書面であり、技術情報としてのアクセスを容易にするといった位置づけの書面です。よって、権利範囲の解釈に用いられるものではありません(特許法第70条第3項)。

 

3.まとめ

つまるところ、明細書を見るときには、特許権の権利範囲を把握するときは特許請求の範囲を見ること、発明の内容を理解するときは明細書・図面を参照すること、ですね。まずは、これを抑えておけばよいでしょう。各書面の具体的な記載内容については、また別の機会に。

 

※ 本項は一般的な事項についての記載であり、これをもって何らかの法的アドバイスをするものではありません。具体的な事案の対処については専門家にご相談下さい。