【038】実施可能要件

Q)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)違反であるという拒絶理由を受けました。実施可能要件とはどのようなものですか?

A)実施可能要件とは、明細書等に関する記載要件の1つであり、発明の属する技術分野における当業者が請求項に記載された発明を実施できる程度に、明細書等が明確かつ十分に記載されていることをいいます。該当条文では「その実施」と記載されていますが、ここにおける「その実施」とは請求項に係る発明の実施のことをいいます。つまり、誤解を招くことを恐れずにざっくり言えば、当業者がクレームの発明が実施できる程度に、明細書等の説明が明確かつ十分な説明になされていますか、ということです。以下、審査基準(第Ⅱ部 第1章 第1節)の記載を参考に、発明のカテゴリー別にもう少し具体的に説明します。

物の発明

・物の発明については、
❶物の発明について明確に説明がされていること
 例えば、化学物質の発明の場合には、化学物質そのものが化学物質名や化学構造式により示されていれば、通常であれば、発明は明確に説明されているといえます。
❷「その物を作れる」ように記載されていること
 物の発明については、当業者がその物を作れるように記載されなければなりません。このためには、発明の詳細な説明において、作り方が具体的に記載されなければなりません。ただし、具体的な記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者がその物を作れる場合には、そこまでの厳密な記載は不要であると判断される場合があります。
❸「その物を使用できる」ように記載されていること
 物の発明については、当業者がその物を使用できるように記載されなければなりません。そのためには、発明の詳細な説明において、どのように使用できるかについて、具体的に記載されなければなりません。ただし、具体的な記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、その物を使用できる場合には、そこまでの厳密な記載は不要であると判断される場合があります。
 例えば、化学物質の発明の場合において、その化学物質を使用できることを示すためには、一つ以上の技術的に意味のある特定の用途が記載される必要があります。

方法の発明

・方法の発明については、
❶「方法の発明」について明確に説明されていること
 一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れなければなりません。
❷「その方法を使用できる」ように記載されていること
 物を生産する方法以外の方法(単純方法)の発明には、物の使用方法、測定方法、制御方法等、様々なものがありますが、これらいずれの方法の発明についても、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用できるように記載されなければなりません。

・「物を生産する方法の発明」については、
❶「物を生産する方法の発明」について明確に説明されていること
 一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の記載から読み取れなければなりません。
❷「その方法により物を生産できる」ように記載されていること
 物を生産する方法の発明には、物の製造方法、物の組立方法、物の加工方法等の発明がある。いずれも、(i)原材料、(ii)その処理工程及び(iii)生産物の3つから成ります。そして、物を生産する方法の発明については、当業者がその方法により物を生産できなければなりませんから、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を生産できるように、これら3つが記載されなければならないのが原則です。ただし、これら3つのうち生産物については、原材料及びその処理工程についての記載から、当業者がその物を理解できる場合には、生産物についての記載を割愛できる場合があります。
 例えば、単純な装置の組立方法であって、部品の構造が処理工程中に変化しないもの等が、このような例外に該当する可能性があります。