キーワード:警告状、特許権侵害、無効理由

 

「わが社が特許権侵害をしているという警告状を受け取ったのですが・・・」

 

<記事本文>

 

Q:わが社はボルトなどの金属部品のメーカーです。3日前に、競業他社であるX社から内容証明郵便で「警告書」が送られてきました。わが社の主力商品である「Syo-Yo」というボルトが、X社が保有している特許権を侵害しており、場合によっては法的手段に訴える用意があると書かれていました。X社の特許権の特許公報を見たのですが、どう考えても、わが社の「Syo-Yo」がこの特許権を侵害しているとは思えません。まるで言いがかりです。返事なんてする必要があるのでしょうか?

 

A:そうですか、いきなり特許権侵害の警告状が送付されてきたので、びっくりしたでしょう。それでは、今回は、警告状を受けた場合の初動対応について、一緒に検討してみましょう。

 

 

1.対応はあくまで誠実に。

(1)御社の製品「Syo-Yo」はX社の特許権を侵害しているはずがなく、この警告状は言いがかり的なものなので、御社としてはX社に返事なんてする必要ない、というお考えなのですね。お気持ちはわかりますが、そこは誠実に対応されることをお勧めします。警告状に対しては、無視するのではなく、何らかの回答(「回答書」など)をしておくことをお勧めします。

 

(2)そして、相手方が内容証明郵便を使っているのであれば、こちらから相手方に回答する際には、同じく内容証明郵便を使うことがよいでしょう。内容証明郵便を使うことで、「誰が、誰に、いつ、どのような内容の手紙を出したのか」ということが、郵便局により公的に証明されます。それに加えて、万が一、特許権侵害訴訟などの訴訟に発展した場合、回答書を証拠として裁判所に提出することになれば、回答書の証拠力を担保できるという効果もあります。

 

(3)ということで、X社に対して回答書を作成するとして、どのような返事にするべきでしょうか?また、何をしなければいけないでしょうか?

 

2.まず、相手の真の目的が何か検討しましょう。

(1)ここで、X社の真の目的が何か、今一度冷静になって検討してみて下さい。このような警告状を送付してきたX社の真意は何でしょうか?

 

(2)例えば、
①製品「Syo-Yo」の販売をやめさせること(差し止め)が目的、
②製品「Syo-Yo」の売り上げについて、何らかの金銭賠償(特許権侵害に基づく損害賠償等)を得ることが目的、
③製品「Syo-Yo」についてのライセンス契約や何らかの共同ビジネス展開の足がかりを作る目的など、
状況に応じて様々な可能性が考えられます。X社の目的については、警告状の記載内容だけでなく、御社とX社のこれまでビジネス上の関係や経緯、御社製品「Syo-Yo」およびその関連商品の市場実績などを考慮して、見極める必要があります。

 

(3)上記の②や③の場合には、経済的条件などによる妥協点が見いだせる可能性もあり、交渉によって解決できる可能性も見込まれるかもしれませんね。
しかし、①の場合には、製品の差し止めという直接的な目的である以上、御社が製品「Syo-Yo」の製造販売をやめるか、続けるかという二者択一的な結果になると想定されます。
そうなると、①の場合には、X社との交渉によって妥協点を見いだすことは難しいかもしれない、という可能性も考えておく必要がでてきますね。(もちろん、最初からこのような妥協点をX社に提示するという意味ではなく、紛争解決の最終的シナリオの可能性の話です。)このように、相手方の真の目的を把握しておくことは、御社が紛争解決の最終的シナリオを予想する上で重要になってきます。

 

(4)なお、ここで挙げた①~③はあくまで一例にすぎませんので、実際にこのような場面に直面された場合には、ご自身だけでご判断されるのではなく、弁理士や知的財産専門の弁護士といった専門家の意見も聞いてみることをお勧めします。

 

3.次に、相手方の特許発明と御社の製品の内容を分析しましょう。

(1)相手方の目的を見極めたところで、次に具体的な分析に入りましょう。分析すべきポイントは、①御社の製品「Syo-Yo」がX社の特許発明の技術的範囲に属するか否か②相手方の特許発明が無効理由を有するか否か、という点です。

 

(2)「①御社の製品『Syo-Yo』がX社の特許発明の技術的範囲に属するか否か」とは、X社の特許発明の構成要件を充足しているかどうかということです。

ア 相手方であるX社は、御社の製品「Syo-Yo」がX社の特許権を侵害していると主張していますが、本当にそうでしょうか?御社は、製品「Syo-Yo」はX社の特許発明の技術的範囲に属していないとお考えのようですが、このご見解が妥当かどうかについて専門家の意見も聞くようにしましょう。

イ 特許発明の技術的範囲に属しているか否かの判断は、御社の製品の内容と特許請求の範囲の記載内容だけでなく、明細書等の記載内容、さらには対象特許の出願経過等も参酌して判断されるべきものです。ここではスペースの都合上、具体的な説明には踏み込まずにおきますが、特許発明の技術的範囲に属しているか否かについては、必ず専門家の意見を聞くようにして下さい。

 

(3)「②相手方の特許発明が無効理由を有するか否か」とは、X社が有する特許発明は、実は特許要件(新規性、進歩性、記載要件等)をみたしておらず、無効とすべきものであるかどうかということです(特許法第123条第1項各号)。

ア X社の特許発明に無効理由があるということになれば、X社は、無効である特許権に基づいて権利行使することは許されません。つまり、X社の主張は認められないということになります。

イ 仮に、御社が専門家と相談した結果、やはり製品「Syo-Yo」はX社の特許発明の技術的範囲に属していないという結論に至ったとしても、念のため、X社の特許発明に無効理由がないか検討しておくべきです。よって、無効資料の調査も忘れずに着手しましょう。

ウ 無効理由を有するか否かについての具体的判断手法の説明は、スペースの都合上割愛しますが、無効理由の有無については、無効資料の調査も必要となることが一般的です。無効理由の検討については、必ず専門家の意見を聞くようにして下さい。

 

4.回答書を作成しましょう。

(1)①御社の製品「Syo-Yo」がX社の特許発明の技術的範囲に属するか否か、②相手方の特許発明が無効理由を有するか否か、について一定の結論が得られましたら、相手方に対する回答書を作成しましょう。回答書の作成は、弁護士や弁理士に作成を依頼してもよいでしょう。

 

(2)回答書にはどの程度の文量を記載すればよいですか?といった質問をお客様からお受けすることが多いですが、初動対処の場面ですので、完結に結論だけを記載するというような対応でもよいでしょう。なお、万が一、特許権侵害訴訟等の訴訟に発展した場合、回答書に記載した主張内容については、裁判所において禁反言の法理の対象となってしまう可能性もあるので、不用意な記載は控えるよう注意しましょう。

 

(3)とはいえ、回答書に何をどの程度記載するのかは、実際の事案の特殊性や専門家の戦略などによって様々な場合が想定されますので、ケース・バイ・ケースとお考え下さい。今回は、初動対処の方針の説明だけで若干長くなってしまいましたので、このくらいにします。