キーワード:明細書の構成、特許請求の範囲

「特許請求の範囲はどう記載すればよいでしょう。」

Q:特許請求の範囲って、どう記載すればよいでしょうか?

 

A:別項で、特許請求の範囲は特許権の権利範囲を確定する権利書的性質を有する書面だとご説明しました。権利を要求する(claim)という意味で、しばしば特許請求の範囲は「クレーム」と呼ばれます。では、このクレームを作成する際、具体的にどのような点に気をつければ良いか、今回は簡単な仮想事例を題材に説明しましょう。

 

仮想事例「使い捨ての紙コップ」

1.仮想事例「使い捨ての紙コップ」を考えてみましょう。
従来は「取っ手がない使い捨ての紙コップ」しか世の中には存在していませんでしたが、取っ手をつければ持ちやすいなぁ、という発想から「取っ手がある使い捨ての紙コップ」を発明したとしましょう(下図)。
これについて特許権を取得したいとすれば、クレームにはどう記載すればよいでしょうか。クレームドラフティングに絶対的な正解は存在しませんが、今回は、強い特許権を取得するにはどうすればよいか、という視点で考えてみましょう。

 

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2.発明のポイントは、取っ手をつけたことですので、端的には、「取っ手を有する、使い捨ての紙コップ。」といったクレーム原案が考えられます。しかし、これでは強い権利といえるでしょうか。

 

(1)このクレームを分節すると、「取っ手を有する」「使い捨ての」「紙(製の)」「コップ」となります。他社が、この4つの条件全てを満たすコップを製造・販売・使用等した場合には、特許権の侵害行為として追求することができます。

 

(2)しかし、この4つの条件のどれか1つでも満たさない場合には、他社の行為は特許権の侵害行為には該当せず、貴社は他社の行為をやめさせることはできないというのが原則です。

① 例えば、他社が「取っ手を有する」が使い捨てではない「紙(製の)」「コップ」を製造・販売した場合には、「使い捨ての」という点を満たさないから、侵害行為に該当しない可能性があります。そうすると、「使い捨て」という要件はクレームに必要ないのではないだろうか、と考える訳です。確かに、「使い捨て」というのは主観的な要素であるので、相手方である他社が「うちの製品は使い捨てではないから、この要件を満たさない」といった反論をしやすいですね。そうすると、「使い捨て」という言葉をクレームに記載する必要性は低いようだから、クレームから削除しましょうという発想になりますね。

 

② 例えば、他社が「取っ手を有する」「使い捨ての」プラスチック製の「コップ」を製造・販売した場合には、「紙(製の)」という点を満たさないので、侵害行為として追求できない可能性があります。そうすると、「紙(製の)」である必要があるのでしょうか。今度は、「紙(製の)」という要件はクレームに必要ないのだろうか、あるいは、プラスチック製などのような他の材料も使い捨て用に使われることがあるので、このような材料も選択肢に含めたほうがよいだろうか、といったように考える訳です。
ここでもう一ひねりしましょう。使い捨てに使われる材料にはどのようなものがあるのでしょうか?紙だけでなくプラスチックもあるようなら、「紙又はプラスチック製の」というように材料の選択肢を広げてみましょうという発想になりますね。

 

③ 例えば、他社が「取っ手を有する」「使い捨ての」「紙(製の)」(コップでない)容器を製造・販売した場合には、どうなるでしょうか。この場合は、もう簡単ですね。コップでない以上、「コップ」という点を満たさないので、侵害行為として追求できない可能性がでてきますね。そうすると、「コップ」である必要があるのだろうか、もっと広い概念にしてもよいのではないか、と考える訳です。

 

ここでもう一ひねりしましょう。コップ以外にも使える用途があるのでしたら、コップに限定せずに、単に「容器」というような広い表現に修正してみましょうという発想になりますね。

 

3.まとめ

クレームに不用意な条件を記載してしまうと、権利範囲を無駄に狭くしてしまうというリスクがあります。よって、クレームについては、特に慎重に言葉を選ぶ必要があります。そして、クレームドラフティングは、まさに弁理士の真骨頂といえるところですので、クレームの構成については、積極的に弁理士の意見を求められることがよいでしょう。