【098】特許発明の技術的範囲

Q)特許発明の技術的範囲とは、何ですか?

 

A)特許発明の技術的範囲とは、特許権の効力が及ぶ客観的範囲として一般に理解されている概念です。極めて簡単にいうと、特許発明の技術的範囲に属している他社製品は、その特許権の権利範囲内にあるといえ、特許権を侵害していると考えられます(勿論特許権の権利解釈にあたっては、様々な論点・問題点が横たわっていますが、それは一先ずここでは横に置いておきます)。よって、特許権侵害訴訟等のような権利行使の場面では、対象とする物や行為がその特許発明の技術的範囲に入っているか否かがまず判断されます。そこで、この特許発明の技術的範囲をどのように解釈すればよいか問題となるところですが、いくつかの規定があり、また規範が定立されています。以下に、概略を説明します。

特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲(クレーム)に基づいて定められます(第70条第1項)。

これは大原則であり、まずはクレームの文言にしたがって特許発明の技術的範囲を判断します。よって、例えば、クレームと明細書の記載が一致しない場合においても、クレームの記載を無視し、明細書の記載のみから技術的範囲を定めることは許されません。

 

クレームに記載された用語の意義は、発明の詳細な説明を参酌して解釈されます(第70条第2項)。

クレームの記載が明確でなく、その理解が困難であるような場合には、発明の詳細な説明の内容を参酌して解釈するということです。例えば、クレームに記載されている「A」という用語が不明確であり、その意義が曖昧な場合、発明の詳細な説明において「A」の説明がなされているときには、その説明を参酌して「A」の定義・意義を解釈するということになります。

 

❸要約書は特許発明の技術的範囲の解釈の基礎としてはいけません(第70条第3項)。

要約書は、専ら技術情報として用いられる書類であり、また、職権訂正される恐れもありますから、これを解釈の基礎とすることは許されません。

 

❹出願経過参酌の原則

特許の審査・審判経過等において出願人が主張した事項や特許庁が示した見解等は、民法上の信義則(民法1条2項)や禁反言の原則の一類型として、特許権者を拘束します。例えば、審査段階において、出願人(=特許権者)が、クレーム中の「A」という用語は「a」という意味であると意見書で主張した場合には、クレーム中の「A」は「a」という意味として解釈される恐れがあります。

実務では、意見書で主張や反論を必要以上に書きすぎない(余計な主張はしない)といったことが留意点として挙げられることがありますが、その理由の1つはこの出願経過参酌の原則が適用されないようにするためです。

 

ここで述べたのは、発明の技術的範囲の解釈にあたって適用される原則・規範の一部に過ぎません。実際に特許発明の技術的範囲の属否を検討する際は、上述した原則・規範以外にも種々のものを検討しなければなりません。したがって、個別具体的な事案にあたるときは専門家の意見を聞くことを強く推奨します。