【055】特許法第39条において先願が同一出願人であった場合
Q)特許法第39条の拒絶理由を受けました。拒絶理由の原因である競合する出願をみたところ、自分が出願人でした。この場合、拒絶理由通知の内容や今後の審査の進め方はどのようなものになりますか?
A)競合する出願が同一出願人であった場合の対応については、審査基準 第Ⅲ部 第4章 4.4.2等に記載されています。一般的には、以下の方針で審査が進められるでしょう。
❶各出願が特許庁に係属している場合
出願人が同一である場合も、審査官は、出願人が異なる場合に準じて第39条第2項又は第4項の規定を適用して、特許庁長官名で協議を指令します。第39条第2項及び第4項の規定の趣旨は、一の発明に一の権利を設けることにあるので、出願人が同一である場合にもこの規定が適用されうるからです。
ただし、上記の取扱いをする場合において、審査官は、協議の指令をするときには、協議の指令と同時に、全ての拒絶理由を通知する。出願人が同一である場合には、協議のための時間は必要ないからです。
❷同日出願のうち少なくとも一の出願について特許又は実用新案登録されている場合
この場合は、協議をすることができないとき(第39条第2項又は第4項)に該当します。よって、審査官は、特許又は実用新案登録がなされていない出願に対し、特許庁長官名での協議の指令をせず、第39条第2項又は第4項の規定に基づく拒絶理由通知をします。
出願人が同一である場合は、拒絶理由通知を受けた段階で適切に対応することが可能であるから、審査官は、第39条第2項又は第4項の規定に基づく拒絶理由通知をする際に、特許権者又は実用新案権者にその事実を通知するといった対応はしません。
商標ではなぜこのような扱い(同一出願人の場合)をしないのでしょうか。
杉山 務様
文面から拝察するに、知識をお持ちの方とお見受けしますので、先願主義に関する講学的な話は別論とし、運用面を中心にご回答します。
従前の商標審査では、同一人が同一商標で同一商品・役務を指定した後願は、原則として「商標法制度の趣旨に反する」として拒絶される運用(いわゆる「精神拒絶」)がなされておりましたが、今般の商標審査基準の改訂によって商標法第3条の趣旨違反として拒絶されることが明確化されました。
したがって、今後は、同一人が同一商標について出願した場合に、当該出願の指定商品・役務全てが、先願(又は先登録)に係る指定商品又は指定役務と同一の出願をした場合に限り、「商標法第3条の趣旨に反する」との拒絶理由が通知されることになります。(ただし、商標法第68条の10 に該当する場合は適用外です。当該規定はマドリッド・プロトコルルートの出願に関するものですので、詳細な説明はここでは割愛します。)
なお、「同一」の判断等については、商標審査基準[改訂第13版](平成29年4月1日適用)の 41.01「商標法第3条の趣旨に反する場合の審査運用について」等をご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyoubin/41_01.pdf
もし実際に商標出願をされており、具体的な対応についてお困りの場合は、コメント欄では公開されてしまいますので、弊所窓口までお気軽にご相談ください