【110】先使用による通常実施権(先使用権)

Q)先使用による通常実施権とはどのようなものですか?

A)先使用による通常実施権(先使用権)とは、他者が特許権を得た発明と同一の発明を、他者の特許出願時以前から、事業として実施または実施の準備をしていた場合には、その事業を継続(その特許権を一定の範囲内で無償で実施)できる権利のことをいいます(第79条)。
 すなわち、先使用権とは、特許発明と同一の内容を、その特許出願前から、善意で実施している者(先使用者)に対し、一定の条件の下で与えられる法定の通常実施権といえます。
 特許権は独占排他的な権利ですが(第68条)、特許出願の時点でその発明と同一の内容を善意で実施(又はその準備)していた者が、特許権が成立したとたんに実施できなくなる、というのは公平の観点、社会経済の観点等から妥当でないので、これを保護しようというのが先使用権の趣旨だと解されています。
 先使用権は、以下の❶~❸の要件を満たすことで発生します(第79条)
❶特許権が存在すること
❷特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又はその発明の内容を知らないでその発明をした者から知得したものであること
❸特許出願の際、現に日本国内においてその発明の実施の事業又はその準備(事業等)をしていること
 先使用による通常実施権は、発生についての手続は不要であり、❶~❸の条件を満たすことで当然に発生します。この通常実施権は、排他的効力を有しない債権的性質であるとともに、特許権に対する一種の抗弁権的な性質を有するといえます。