【044】サポート要件違反の類型
Q)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反の具体例を教えて下さい。
A)審査基準(第Ⅱ部 第2章 第2節 2.2)には、サポート要件違反の具体例が記載されています。以下にそのいくつかを示します。
❶請求項に記載されている事項が、発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない場合
・例)請求項においては数値限定されているが、発明の詳細な説明では、具体的な数値については何ら記載も示唆もされていない場合
・例)請求項においては、超音波モータを利用した発明についてのみ記載されているのに対し、発明の詳細な説明では、超音波モータを利用した発明については記載も示唆もされておらず、直流モータを利用した発明のみが記載されている場合
❷請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、その結果、両者の対応関係が不明瞭となる場合
・例)ワードプロセッサにおいて、請求項に記載された「データ処理手段」が、発明の詳細な説明中の「文字サイズ変更手段」か、「行間隔変更手段」か又はその両方を指すのかが不明瞭な場合
❸出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
・例)請求項には、R受容体活性化化合物の発明が包括的に記載されている。しかし、発明の詳細な説明には、具体例として、新規なR受容体活性化化合物X、Y、Zの化学構造及び製造方法が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
・例)請求項には、達成すべき結果により規定された発明(例えば、所望のエネルギー効率の範囲により規定されたハイブリッドカーの発明)が記載されている。しかし、発明の詳細な説明には、特定の手段による発明が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
・例)請求項には、数式又は数値を用いて規定された物(例えば、高分子組成物、プラスチックフィルム、合成繊維又はタイヤ)の発明が記載されているのに対し、発明の詳細な説明には、課題を解決するためにその数式又は数値の範囲を定めたことが記載されている。しかし、出願時の技術常識に照らしても、その数式又は数値の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合
❹請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合
・例)発明の詳細な説明には、データ形式が異なる任意の端末にサーバから情報を提供できるようにするという課題のみを解決するために、サーバから端末に情報を提供する際に、サーバが、送信先となる端末に対応したデータ形式変換パラメータを記憶手段から読み取り、読み取ったデータ形式変換パラメータに基づいて情報のデータ形式を変換して端末に情報を送信することのみが発明として記載されている。他方、請求項にはデータ形式の変換に関する内容が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合
・例)発明の詳細な説明の記載から把握できる課題は、自動車の速度超過防止のみであり、発明の詳細な説明からは、その解決手段として、自動車の速度上昇に伴いアクセルペダルを踏み込むのに要する力を積極的に大きくする機構のみが把握できる。他方、請求項には自動車の速度上昇に伴いアクセル手段を操作するのに要する力を可変とする操作力可変手段を設けたとしか規定されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、速度上昇に伴い操作力が減少する場合には発明の課題が解決できないことが明らかであるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになる場合