キーワード:弁理士への相談、特許出願

 

タイトル:「弁理士に特許出願を依頼するにあたって」

 

<記事本文>

 

Q:「今回はじめて弁理士に特許出願をお願いしようと思います。発明の内容は、『干したときに衣類が型崩れしない新しいハンガー』の発明です。弁理士に発明の内容を説明するときは、どのようなものを準備すればよいですか?」

 

A:弁理士に出願を依頼して、強い権利を取得するためには、弁理士が発明の本質を理解した上で、適切な書類を作成することが必要です。そして、発明の本質を理解するためには、依頼者から提供される発明に関する情報がたよりになります。この点について、弁理士会のホームページには、「弁理士に依頼する場合のポイント」という記事があります。今回は、その記事内容について、より詳しくご説明するという形で進めたいと思います。

https://www.jpaa.or.jp/consultation/commission/point.html

 

1.弁理士に相談する。

(1)特許出願するという決定をされる前の段階で(例えば、特許出願するかどうか迷っているというような場合)、一度弁理士にご相談下さい。発明をレベルアップするにはどのような方向でさらに検討をすすめるべきか、弁理士と一緒に考えましょう。経験豊富な弁理士であれば、依頼者から発明のアイデアを聞いた段階で、「この点をもう少し強化したら、より強い権利がとれそうだな」とか「出願をするならこういったデータが追加で必要になりそうだな」といったような視点から建設的な提案をすることも可能です。

 

(2)なお、弁理士には守秘義務がありますから(弁理士法第30条、第77条等)、仮に、特許出願を依頼するに至らなかった場合であっても、弁理士は、依頼者の許可なく外部にご相談内容を公開することはありません。ごくまれに、相談内容が漏れることを気にされてか、弁理士に発明の重要事項を話すことをためらう方がいらっしゃいますが、そこはご安心下さい。

 

2.発明の理解に役立つ技術的資料をそろえる。

(1)弁理士に相談する際の重要なポイントの1つが、これです。たまに、特許出願を弁理士に依頼するにあたって、「自分が発明した内容はこんなにすごいのだ」と口頭でご説明をして頂けるのですが、ご持参頂いた技術的資料は不十分という方がいらっしゃいます。

例えば、本件のケースのような日用品の発明の場合であれば、発明品についての概要説明書、設計図・概略図、各種データ、発明品から派生するバリエーション(変形例など)に関する説明資料などは是非ご提供頂きたいところです。

 

(2)特許出願の審査は書面主義ですから、特許出願に係る発明が特許されるかどうかは明細書の記載内容に基づいて審査されます。よって、書面の内容が命です。この点、依頼者の口頭説明だけですと、どうしても弁理士自身が想像して補足する内容がでてきてしまったり、書面に落とし込む際に抜けができてしまったりする可能性がでてきます。そうなると、依頼者の方が想定していた内容と、実際に出願された明細書の内容が、微妙にズレてしまうことにもなりかねません。そうなるともう後の祭りです。

お手数かもしれませんが、出願をご依頼する場合には技術的資料を揃えて下さい。また、弁理士が要求する書面や情報については、可能な限りご提供下さい。そうすることによって、最終的には強い権利を取得できたという結果につながるでしょう。

 

3.説明をする際のポイント

(1)弁理士に発明の内容を説明する際は、従来技術と発明品との構成の相違点(構造の相違点)がどこになるのか、を中心にご説明されることがよいでしょう。特許の相談をするのだから、そんなことは当たり前だよ、と思われるかもしれませんが、初めて特許出願をされる方で、この点をうまく弁理士に伝えられる方は意外と少ないです。例えば、「この発明品は、従来技術にはない優れた性能をもっているんですよ」といったように、もっぱら発明品の効果を強調される一方で、「従来技術に対する発明品の構造上の相違点」がどこなのかについては、詳しいご説明を頂けないといった感じです。弁理士との面談がこのような感じだと、弁理士は、「発明品の持つ性能は、発明品のどの部分によるものなんだろう?高い性能があるというが、物の構造としての特徴部分は、どこになるのだろうか?」というように考えるかもしれません。

 

(2)では、このことを本件のケースに即してもう少し具体的に説明しましょう。仮に、依頼者が発明したハンガーについて特許出願をしたとします。この特許出願を審査する審査官は、まずは、従来技術と本願発明との構成の相違点が何なのかを明細書の記載内容から把握しようとします。具体的には、「従来のハンガー」と「本願発明のハンガー」の構造の違いを把握しようとするでしょう。例えば、「本願発明は、従来のハンガーに無かった『A』という部品を使っているのだな」とか、「従来のハンガーは『B』という部品を使っていたが、本願発明では『B』ではなく『C』という部品に変更したのだな」とか、「従来のハンガーでは、『D』という部品は棒状の形状であったが、本願発明では、『D』という部品は棒状ではなく少し曲がった形状をしているのだな」いった要領です。したがって、審査官が審査する明細書もそのような要領で記載されることがよいでしょう。そうすると、依頼者が弁理士に説明する際には、この「A」や「C」や「D」という部品が従来品との構造上の相違点であることを明確に指摘した上で、どのように相違しているのかを詳しく説明されることがよいでしょう。

 

(3)その次に、効果の説明をして下さい。つまるところ、「従来技術と発明品との構成の相違点があるとして、この相違点によってどんな性能が発揮されますか?ということです。」本件のケースでは、本願発明のハンガーが持っている「A」や「C」や少し曲がった形状である「D」という部品がどのように作用することで、干したときに衣類が型崩れしないという効果が得られるのか、という点を詳しく説明されることがよいでしょう。

 

3.まとめ

ここで述べた事項はあくまで雑感的な内容であり、弁理士に相談する際には必ずこのような流れで話しをしなければいけない、というものではありません。とはいえ、弁理士に効率よく発明の本質を伝える際の一助にはなると思いますので、ご参考にして頂ければ幸いです。

 

※ 本項は一般的な事項についての記載であり、これをもって何らかの法的アドバイスをするものではありません。具体的な事案の対処については専門家にご相談下さい。